YesでもNoでもいいからー「私も臓器提供の意思示そう」。LINEジャーナリズム賞記事が、読者を動かした理由
2022年12月14日、3年ぶりにリアル開催となった「LINE NEWS AWARDS 2022」。月間7700万人アクティブユーザー(2021年8月時点)を持つ国内最大級のニュースプラットフォーム「LINE NEWS」が、その年に話題になった人物やニュース、メディアを表彰するニュースの祭典です。
その中で、報道関係者から注目されているのが、社会課題を工夫して伝えている記事を表彰する「LINEジャーナリズム賞」です。
その年にLINE NEWSで配信された数百万本の記事から、ノミネート10記事を選出。特に優れた1記事をLINEジャーナリズム賞として表彰しています。素晴らしい記事や書き手が、より多くの読者の目に触れる場を設けることで、良質なコンテンツが世の中に増えていくサイクルを後押ししたいという思いのもと2019年から表彰を続けています。
今回LINEジャーナリズム賞を受賞したのは「テレビ新広島」の移植医療に関する記事。ある日突然心臓移植が必要となった広島県の男性を主人公に、移植医療を取り巻く日本の現状を伝えました。
日本では、心臓移植を待つ人が約900人いるのに対し、手術を受けられるのは年に60人程度。そんな厳しい現実とともに、支援の必要性を伝え、読者へ行動を促す内容になっています。
テレビ局としては初の大賞受賞となったテレビ新広島。臓器移植という重いテーマながら多くの読者の共感を呼んだこの記事の制作と反響に関して、執筆に当たった報道部の石井百恵さん、「編集長」として放送やデジタル上での記事配信などに携わる福田康浩さんに話を聞きました。
「中学生が社会科見学に」 多くの読者を突き動かした記事
——「LINEジャーナリズム賞」、おめでとうございます。受賞について率直なご感想をお聞かせください。
石井さん:
おかげさまで多くの方々から大きな反響をいただきました。受賞を知らせていない方からも年賀状で「おめでとう」との言葉がありましたし、今回の受賞をきっかけにまた多くの人がこの記事を読んでくれたことをとてもうれしく思います。
——2022年10月にLINE NEWSで初めてこの記事が出た際にも、多くの反響があったそうですね。
石井さん:
臓器移植がテーマのドキュメンタリー番組を基にした記事なので、どれだけの方が関心を持ってくれるか分かりませんでした。ところが記事が出ると、取材の主人公となった森原大紀さんのTwitterアカウントのフォロワーが急増したんです。それだけでなく、SNS上で「免許証の裏面にある臓器提供意思の番号に丸を付けました」というコメントが来たり、森原さんの元へ講演の依頼があったりと、記事を読んで関心を持ち、行動に移してくれた方々がたくさんいらっしゃったんです。
驚いたのは、臓器提供の橋渡しを行う「日本臓器移植ネットワーク」から「中学生が社会科見学に来た」と連絡をいただいたことです。職員の方が「なぜここに来たの?」と尋ねたところ「LINEの記事を読んで見学したいと思いました」と答えたそうで。
今回の記事化、そして受賞で私が最もうれしかったのは、このように記事を読んで次の行動を起こす方々がいらっしゃることです。こうしたきっかけにつながったことがとてもうれしいです。
「分かりやすさのテレビ」と「インパクトのLINE」 各特徴を踏まえて制作
——今回、LINEでこの記事を制作することになった経緯を教えてください。
福田さん:
これまでにLINEさんとは「コラボ企画」という枠組みを通して2021年と2022年の夏、8月6日の原爆の日に合わせて記事を制作してきました。その流れでLINE NEWSの担当者の方に「移植医療の特番を作ったんですよ」という話をしたところ「ぜひ記事化しましょう」とご提案いただきました。
石井さん:
局内で私に「この特番をLINEで記事にしてみない?」と打診があったのは、番組を作り上げてほっと一息ついていたときです。話をいただいたとき「放送して終わり」ではなくて、さらに伝えられる手段があるということで、作り手としてうれしいと思いました。何より取材させていただいた森原さんが講演活動を展開されていたので、そのお手伝いにもなると思い「チャンスがあるならやりたいです」と答えたんです。
——難しいテーマですが、取材や記事化に当たってはどのような点に気を配りましたか。
石井さん:
移植医療はテレビ新広島という局として長年追ってきたテーマで、私も先輩から引き継いで取材に当たりました。その過程で移植医療の歴史を知り、さまざまな関係者の方にお会いするうちに「移植医療、バンザイ」という内容にするのはちょっと違うと感じるようになったんです。
移植医療の現場とそれによって助かる命があると伝えることはもちろんですが「そこに至るまでの過程には、さまざまな立場の方がいろいろな意見を持っている」という事実も俎上に載せる必要がある。そして番組や記事を見た方一人一人がその先を考えるきっかけにしてほしいと考えました。最も伝えたかったことは「移植医療というものがあり、それを家族で話し合ってお互いの意見を聞いておくことが大切です」ということです。
——LINEならではの記事の作り方で難しかった点や工夫した点はありましたか。
石井さん:
テレビドキュメンタリーは映像がとても大切で、極論をいえばナレーションを入れず、映像だけで伝えられるのが理想です。しかし記事では逆に文章を増やして読ませる構成に仕上げなくてはなりません。特にLINE NEWSは若い世代の方も親しんでいるので、幅広い年代層に向けた「分かりやすさ」が求められるテレビとは違い「難しいことを易しく伝えられるように再構築する作業」が必要になります。
一方、記事になることでよい点もありました。テレビだと何百時間もかけて取材したのに“映像がないから伝えられない”ということがあるのですが、文章なら映像がなくても言葉で伝えられます。ただどうしても実際に自分が取材した分、あれこれ情報を入れたくなるので、そこはLINEさん側から「もう少しギュッと圧縮してほしい」とアドバイスを受けました。
写真の選び方、読ませる工夫など勉強になった点も多いです。たとえば写真にしても、テレビは説明的な分かりやすい画を優先します。LINEのようなインターネットメディアはよりインパクトが強く、読む人の感情に訴求するような引っかかりのある画像が好まれます。記事を見た方の反応や拡散のスピードもテレビとは違いますし「重いテーマのドキュメンタリーにも若い人は関心を向けてくれるんだ」と勉強になりました。
デジタルとテレビの相乗効果で多くの人にコンテンツを届けたい
——日々のニュース記事配信にとどまらず「コラボ企画」という枠組みを通じてドキュメンタリー番組などの記事化を行う狙いを教えてください。
福田さん:
一度報道した番組を異なる媒体で再構築できる場というのは私たちにとって非常にありがたい場です。何百時間もかけて取材した映像の中から特に見どころがある場面をテレビで放映し、LINE NEWSでは文章という形で取材の“中身”を再構成して伝えられます。つまり「映像とテキストで、最も伝えたかった部分をミックスして提供できる」わけです。
またテレビは番組が次々に移り変わっていくので、よい内容の報道を見ても忘れ去られてしまいますが、こうして記事にすると新たな余韻を残すことができます。これは制作者にとってチャンスです。それが今回、LINEジャーナリズム賞として実を結んで本当にうれしいです。
——テレビとLINE NEWSで、視聴者・読者層の違いをどのようにお感じになりましたか。
福田さん:
大学などで講義をする機会もあるのですが、若い方と接しているとネットの記事を“自分ごと”に置き換えて読んでいる方が多いようです。そして「自分はこう思うけど、どう思う?」と感想をコメントして周囲に回していくんですね。先ほど「拡散のスピードが違う」という話がありましたが、そのスピードはこういうことなんだな、と感じました。
また「テレビの分かりやすさに対し、LINEやインターネットメディアはインパクト」という話もありましたが、感情に訴えるからこそ、拡散したり、森原さんへの講演依頼があったり、次の行動を促しやすいのでしょう。テレビの報道とは違う反響です。若い方も難しいテーマに興味がないわけではなく「伝え方」や「伝える経路」が大事なのだと気付かされました。
——テレビ新広島さんはYouTubeチャンネルで過去の特番のアーカイブ映像を配信するなど早くからデジタル展開に積極的に取り組まれています。LINEも含めたデジタル上でのコンテンツ発信にどのような期待を感じていらっしゃいますか。
福田さん:
時代はすでにデジタルが主流になっているので、テレビ局もデジタル展開が必要だと考えています。特に私たちが蓄積してきたアーカイブプロジェクトは、戦後75年以上が経ち原爆の記憶が風化する中で、継承していかなくてはなりません。若い世代がインターネットメディアに慣れ親しんでいるのであれば、そこに展開するのは自然な流れだと思います。
石井さん:
広島に根差した放送局で働く中で、姿勢として「地域の親友であること」を大事にしています。親友にとってうれしいことがあれば喜び、不幸があれば寄り添い、カープが優勝すれば一緒にどんちゃん騒ぎをします。そして、親友のことはみんなに知ってほしいと思っています。LINEというツールには、親友のことを知ってもらう輪を広げられるような可能性を感じています。
福田さん:
LINE NEWSもそうですが、今の時代に合ったコンテンツの発信の仕方があります。デジタル時代の中テレビの限界や新聞の限界がありましたが、将来的にはインターネットツールの限界も訪れるかもしれません。しかしこうしてネットとテレビがコラボすることによって、いろんな化学反応を起こして相乗効果を生んで、表現の仕方も多様化し、今まで届かなかったところに情報が届くというのは素晴らしいことだと思います。これからも多くの方々の心に響く報道を展開したいと思います。
月・水・金の17時56分に配信
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LINEジャーナリズム賞についてもっと知る
LINE NEWS AWARDS 2022特設サイトにて、ノミネート10記事と、6名の特別アドバイザーからのノミネート記事に対するコメントをご覧いただけます。
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また、過去の受賞記事一覧を下記からご覧いただけます。